ドービニー展の図録について
山梨県立美術館で行われたドービニーの美術展で、図録を購入しました。
日本では今のところ画集や伝記は販売されていないので、貴重な資料になると思います。
フランスの画家シャルル=フランソワ・ドービニーは、近代風景画史を語る上で重要な画家の一人です。
ところが、これまで日本においてドービニー のまとまった個展が開かれることはありませんでした。
2018年、ドービニーの没後140周年に当たり、山梨県立美術館において日本で初めて開催されたドービニー展は、その意味で極めて貴重な機会だったと言えるでしょう。
ドービニーは、ミレーやモネ、ゴッホなどに比べ、日本ではあまり一般的ではない画家かもしれません。
しかし、展覧会で手に入る図録を読むと、絵の美しい空や水辺の色使いに魅了されることはもちろん、美術史におけるドービニーの極めて重要な役割を知ることができます。
シャルル=フランソワ・ドービニーは、1817年、フランスのパリに生まれます。
幼い頃は、風景画家だった父親から絵の手ほどきを受け、最初は当時主流だった宗教や神話を描いた歴史風景画家を目指します。
その夢の途中、コンクールの二度の落選によって、ドービニーは身近な自然そのものを絵の題材とするようになると、アトリエ船「ボタン号」で各地を旅しながら、風景画家としての地位を確立していきます。
図録では、まず初めに、19世紀のフランス美術を網羅する「ランス美術館」館長を始め、「ドービニー美術館」館長、またドービニーの末裔の人等のエッセイから始まり、一気に19世紀フランスへと誘われます。
そして、彼の1840年代初期の作品から、1878年に没するまでの油絵や版画の作品及び関連する作家の作品約110点余りを年代を追いながら解説しています。
シャルル=フランソワ・ドービニー 1840年 聖ヒエロニムス
シャルル=フランソワ・ドービニー 1861年 ボニエール近郊の村
特に、バルビゾン派の画家たちとの交流や、印象派の先駆者として、同時代相互に影響を与え合った画家たちとのエピソードも織り交ぜながら解説、また作品の下に関連するコラムも追記されているので、ドービニーを一から知る教科書としてとても分かりやすい内容になっています。
図録の最後に、山梨県立美術館の小坂井玲学芸員が紹介している、晩年のドービニーが旅先から親友に宛てた次のような書簡がとても印象的でした。
描くよりも、見る方がより一層美しく捉えられるものです。描かれたものはサイズが小さすぎて、その土地の偉大さを観念として込めることが叶わないことが常です。
(中略)
この旅で目にした偉大な景観には大変驚かされました。その景観を表現するために必要な解釈を得るために、そして、描いたものが写真的な凡庸さに陥らないようにするために、長い滞在が必要だと感じるほどでした。
出典 :『シャルル=フランソワ・ドービニー展図録』
この手紙の体験をもとに描かれたのが以下の作品です。
シャルル=フランソワ・ドービニー 1873年 山間風景、コートレ
ここに、ドービニーの自然に対する畏敬の念と、また自らの芸術に対する信念が伺えるように思います。そして、その根底には、彼が描くところの水辺の風景と、その自然に殆ど同化するかのような人々や動物への温かな眼差しが感じられてなりません。
この図録は、2019年まで巡回する「ドービニー展」の会場でも購入することができるそうです。